福岡の天神地下街、実は他の地下街と全然違う理由

歩く福岡

天神地下街を通るたびに思うんです。なんとなく、他の街の地下街と雰囲気が違うなって。東京や大阪の地下街も便利だし活気があるんですが、天神地下街には独特の「落ち着き」がある。これ、実は偶然じゃなくて、開業当時から貫かれているコンセプトが関係しているんです。約600mの通路に150店舗が並ぶこの空間、ちょっと注意深く歩いてみると、細部にこだわりが詰まっていることに気づきます。

「劇場」として設計された地下街という発想

天神地下街の特徴を語る上で外せないのが、「劇場」というコンセプトです。正直、最初にこの話を聞いたときは「地下街が劇場?」とピンと来なかったんですが、説明を聞いて納得しました。

通路が客席で、各店舗が舞台。そして主役はお客さんで、店員さんは脇役という設定なんです。だから通路の照明は意図的に暗めにしてあって、店舗がスポットライトで照らされているような演出になっている。面白い発想ですよね。

開業当初は「暗すぎる」という批判もあったそうで、一度は照明を増やしたらしいんですが、結局元に戻したとか。

今では、この薄暗さが天神地下街の個性になっています。他の地下街が明るく均一な照明なのに対して、天神地下街は光と影のコントラストを大切にしている。このメリハリが、歩いていて飽きない理由かもしれません。

飲食店街がない?その徹底した戦略

実は、天神地下街には「飲食店街」というエリアがありません。これ、意外じゃないですか?

大阪や名古屋、東京の主要な地下街には、だいたい飲食店が集まったゾーンがあります。ラーメン、カレー、居酒屋なんかがずらっと並んでいて、昼も夜も賑わう。集客力を考えれば、飲食店街を作った方が効率的なはずなんです。

でも天神地下街は違う路線を選んだ。飲食店は点在させて、ファッションや雑貨のショップと混在する形です。しかも女性向けのカフェやベーカリー、パスタ専門店が中心で、中年男性が入りやすい店は蕎麦屋くらい。

これ、19世紀ヨーロッパの街並みというコンセプトを貫くための選択なんでしょうね。エリア分けしないことで、お客さんが地下街全体を「回遊」するようになる。目的の店に一直線ではなく、あちこち見て回る楽しさを提供する設計。確かに、天神地下街って目的なくぶらぶら歩いても楽しいですもんね。こんな経験、ありませんか?

細部まで感じる、ヨーロッパへのこだわり

天神地下街を歩いていると、至る所にヨーロッパ風のデザインが散りばめられています。円形に広がる石畳、唐草模様の天井、アール・ヌーヴォー調の曲線を描くドア。ステンドグラスや赤い電話ボックス、街灯風の照明。どれも1976年の開業当時から変わらないデザインです。

ちなみに、なぜヨーロッパなのか。開業前に福岡の人たちに「行ってみたい場所・時代」を調査したところ、「ヨーロッパ」と「手作り時代末期」が1位だったそうです。つまり当時の福岡の人たちの「憧れ」を形にしたのが、この地下街なんですね。

面白いのは、このデザインが時代を超えて通用していること。

レトロなんだけど古臭くない。むしろ今の時代に新鮮に映るくらいです。石とレンガと鉄を基調にしたデザインって、流行に左右されないんでしょう。あと、そういえば最近リニューアルされたトイレも、図書館風とかブティック風とか、こだわりが凄いって話題になってました。

働く人たちへの配慮も独特

これは意外だったんですが、天神地下街って店舗スタッフへの福利厚生がかなり充実しているらしいんです。接客研修やビューティー研修、メンタルヘルス研修はもちろん、開運占いイベントなんてのもあるとか。従業員パーティーや抽選会もあって、店舗間の交流を促進している。休憩室もリニューアルされて、LINE公式アカウントで情報発信もしているそうです。

多くの商業施設では、各店舗は独立した存在で、施設側との関係は契約上の繋がりだけ、というケースが多いと思うんですが。天神地下街は「ここで働いている」という一体感を大切にしているんですね。

たぶん、これも「天神という街全体を一つの空間として捉える」という考え方の表れなんでしょう。単なるテナント集合体じゃなくて、一つの「街」として機能させるための工夫。スタッフが誇りを持って働ける環境があれば、それはお客さんにも伝わりますから。

商業施設を超えた、都市のインフラとしての存在

天神地下街のすごいところは、商業施設としての顔だけじゃないことです。地下鉄空港線の天神駅、七隈線の天神南駅、西鉄福岡(天神)駅、西鉄天神バスセンター。これら全部が天神地下街を通じて繋がっている。おまけに周辺のオフィスビルや商業施設とも地下で直結。つまり、天神エリア全体を繋ぐ「大動脈」としての機能を持っているんです。

2025年には天神ビッグバンが完成予定で、オフィスワーカーの数は現在の2.4倍になるという予測もあります。そうなると、天神地下街の役割はさらに重要になるでしょう。雨の日も暑い日も快適に移動できる地下通路って、都市の利便性を左右する大事な要素ですから。

運営会社の社訓に「都市文化の向上発展に貢献する」とあるそうですが、まさにその通りの存在になっていると思います。店舗の顔ぶれも、時代に合わせて変化させているし。余談ですが、南エリアは最近「食」のエリアとしてリニューアルされたそうで、七隈線延伸で増えた居住者のニーズに応える形になっているとか。

天神地下街が愛され続ける理由

福岡の天神地下街、単なるショッピングスポットじゃないんですよね。19世紀ヨーロッパという一貫したコンセプト、劇場としての空間演出、飲食店を分散させた回遊性重視の設計。そして何より、天神という街全体を繋ぐインフラとしての役割。来年で開業50周年を迎えますが、半世紀経っても色褪せない魅力があるのは、こうした細部へのこだわりがあるからでしょう。次に天神地下街を通るときは、ちょっと立ち止まって石畳やステンドグラスを眺めてみてください。きっと今までとは違う見え方がするはずです。

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