福岡とアジアの交流、その深さに触れて感じたこと

出かける福岡

福岡に住んで長いのですが、「アジアとの交流拠点」という言葉の重みを本当に理解できたのは、つい最近かもしれません。地理的に近いのは知っていましたが、実際にどれほど深く、多様な形で交流が続いてきたのでしょうか。福岡アジア美術館を訪れたり、街中でアジアの言葉が飛び交う様子を見たりするうちに、ああ、これは単なる「近い」だけではないのだな、と感じました。今回は、福岡とアジアの交流について、いくつかの側面から掘り下げてみたいと思います。

古代から続く、福岡の「玄関口」としての役割

福岡がアジアとの交流拠点になったのは、何も最近の話ではありません。実は古代から、この地域は外交や貿易の最前線だったのです。

弥生時代の板付遺跡では稲作の痕跡が見つかっていて、大陸から新しい文化がここを通じて日本列島に広がっていったことが分かります。吉武高木遺跡からは青銅器が出土していますし、比恵・那珂遺跡群は「最古の都市」とも呼ばれています。古墳時代になると、西新町遺跡が国際交易港として機能していたそうです。渡来人が定住した痕跡も、あちらこちらに残っています。

飛鳥時代には鴻臚館という外交施設ができ、ここで海外からの使節を迎えていました。今でも福岡城跡の近くに鴻臚館跡があり、発掘調査が続いているのです。

福岡は千年以上も前から、アジアの文化や技術を受け入れていて、それを日本各地に伝える「ハブ」のような役割を果たしてきたわけです。地理的に近いだけではなく、その位置を活かして積極的に交流してきた歴史があことを、案外知らない人も多いのではないのでしょうか。

世界でも珍しい、福岡アジア美術館という存在

福岡とアジアの交流を象徴する施設といえば、福岡アジア美術館でしょう。この美術館、実はかなり特殊なのです。何が特殊かというと、アジアの近現代美術を専門に扱う美術館としては、世界で唯一の施設なのだそうです。

博多の中心部、リバレインセンタービルの7・8階にあり、アクセスもよく、展示されているのは、中国、韓国、インド、東南アジアなど、アジア23の国と地域から集めた約5000点のコレクションです。これだけの規模と質を持つアジア美術のコレクションは、他では見られないと言われています。

興味深いのは、単に作品を展示するだけではなく、アジアのアーティストや研究者を招いて交流事業も行っていることですが、「アーティスト・イン・レジデンス」という制度があり、海外から作家を招いて福岡に滞在してもらい、市民と交流したり作品制作をしたりしてもらうのです。

私も以前、あるアーティストのワークショップに参加したことがあるのですが、言葉や文化の違いを超えて、アートを通じて通じ合える瞬間があって、とても驚きました。ちなみに、2025年12月から2026年3月まで改修工事で休館するそうなので、訪れるならその前後がいいかもしれません。

こどもたちが紡ぐ、次世代のアジア交流

もう一つ、福岡とアジアの交流を語る上で外せないのが、「アジア太平洋こども会議・イン福岡」(APCC)です。これは1989年から続いている民間の国際交流事業で、毎年アジア太平洋地域の国々から11歳のこどもたちを福岡に招いて、ホームステイや学校訪問を通じて交流するというものです。

私の知人の家族も何度かホストファミリーをやっていて、「言葉が通じなくても、こどもたち同士はすぐに仲良くなるんだよ」と話していました。逆に、福岡のこどもたちを海外に派遣する「チャレンジトリップ」という事業もあり、これまでに55の国と地域、延べ数千人のこどもたちが参加してきたそうです。

こういう草の根の交流が、長期的に見ると大きな意味を持つのではないかと思うのです。こどもの頃に異文化に触れた経験は、大人になってからもずっと残ります。将来、ビジネスや学術、文化の分野で活躍する人材を育てる土壌になっているのかもしれません。

また、APCCの卒業生たちは世界各地に同窓会組織を作っていて、今でも交流が続いているそうです。一度つながった縁が、ずっと続いていく。素敵なことだなと感じます。

研究と学びを通じた、深い相互理解

福岡アジア都市研究所(URC)という組織があります。ここは、福岡市やアジアの都市について研究したり、情報発信したりしている公益財団法人です。URCでは、都市政策の研究はもちろん、「アジア都市景観賞」という賞を設けていて、アジアの優れた都市デザインや景観づくりを表彰しています。それと、海外の研究者を招いたセミナーや、国際的な研究機関との協力も盛んに行っています。

何が興味深いかというと、単に「福岡はこうあるべき」と内向きに考えるのではなく、アジアの他都市と比較しながら、お互いに学び合う姿勢があることです。福岡の強みは何か、課題は何か、それを知るためには、他の都市を知ることが不可欠です。

たとえば、福岡市は「アジアのリーダー都市」を目指していると言われていますが、それは単に経済規模だけの話ではないはずです。環境、教育、文化、生活の質、そういったあらゆる面で、アジアの都市と競い合いながらも協力し合う関係を築いていく、そのための基盤を、URCのような機関が支えているのだと思います。

九州国立博物館が象徴する、文化交流の歴史

太宰府にある九州国立博物館も、アジアとの交流を考える上で重要な施設です。ここは日本で4番目の国立博物館として2005年に開館したのですが、テーマが「日本文化の形成をアジア史的観点から捉える」というものなのですね。

館内では、古代から近世にかけて、日本がアジア諸国とどのように交流し、影響を受けてきたかが丁寧に展示されています。陶磁器、仏教美術、武具、染織品など、さまざまな文化財を通じて、アジアと日本のつながりが見えてきます。

個人的に印象的だったのは、朝鮮半島や中国からの使節団に関する展示です。彼らが持ち込んだ技術や思想が、日本の文化にどれだけ大きな影響を与えたのでしょうか。でも同時に、日本からもアジアに向けて文化を発信していたことで、一方通行ではなく、双方向のダイナミックな交流があったのだな、と実感しました。

ちなみに、九州国立博物館は独立行政法人と福岡県が共同で運営する珍しい形態で、福岡県立アジア文化交流センターという組織がアジアとの学術・文化交流を担当しています。ここも「アジアとの交流」が根底にあるのです。

日常に溶け込むアジア——多文化共生の今

最後に、もっと身近な話をしたいと思います。福岡に住んでいると、本当に自然にアジアの人たちと出会うのです。コンビニやスーパーで働いている留学生、街中で韓国語や中国語で話している観光客、飲食店のスタッフなどは、もう日常の一部です。

天神や博多駅の周辺では、アジア各国の料理店が軒を連ねていますし、大型書店には韓国や中国の雑誌が並んでいます。福岡市の統計を見ると、在住外国人の数は年々増えているそうです。特にアジア諸国からの留学生や技能実習生が多いし、彼らがいなければ、今の福岡の街は成り立たないのではないかと思うほどです。

もちろん、言葉や習慣の違いから生まれる摩擦もゼロではないでしょう。ただ、全体としては、福岡は多文化共生がうまくいっている都市の一つななのではないでしょうか。それは、歴史的にアジアとの交流を続けてきた土壌があるからかもしれません。

「アジアンパーティー」のようなイベントも毎年開催されていて、福岡市内のあちらこちらでアジアの文化に触れられる機会が設けられています。あまり知られていませんが、こういう地道な取り組みが、市民レベルでの相互理解を深めているのだと思います。このような環境、あなたの街にもありますか?

福岡とアジア、これからも続く交流

福岡とアジアの交流について調べてみて、その歴史の深さと広がりに改めて驚かされました。古代の交易から現代の多文化共生まで、形を変えながらも一貫して続いている交流、それは地理的な近さだけでは説明できない、もっと積極的で双方向的なものです。美術館、こども交流、研究機関、博物館、そして日常生活など、あらゆる場面で、福岡とアジアはつながっています。これからも、この関係はさらに深まっていくでしょう。あなたも福岡を訪れたら、ぜひアジアとのつながりを感じてみてください。きっと新しい発見があるはずです。

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