九州というと、交通の便があまり良くないイメージを持たれがちです。でも最近、この状況が大きく変わろうとしているのをご存じでしょうか。新幹線の延伸、高速道路網の整備、そして何よりデジタル技術を活用した「九州MaaS」の登場です。私自身、数年前に福岡から鹿児島へ移動した時と今とでは、本当に利便性が段違いになっていて驚きました。この記事では、今まさに進化している九州の交通網について、実際のデータと現場の声を交えながらお伝えしていきます。
車社会からの脱却?九州の交通事情の今
九州といえば「車社会」というイメージが強いですが、データを見ると自家用車の分担率が80%を超えていて、全国平均よりもかなり高い数字です。特に宮崎県は92.8%と、全国で最も車依存度が高い県になっています。
私の知人も宮崎出身なのですが、「コンビニに行くのも車」と言っていたのを思い出します。確かに、平野が広がっていて車での移動がしやすい地形ですから、自然とそうなるのかもしれません。
ただ、これが実は大きな問題も抱えているのです。鉄道の利用者は平成8年をピークに減少し続けていますし、バスに至っては昭和44年から減り続けている状態です。要するに公共交通機関が衰退の一途を辿っているわけです。
興味深いのは長崎県で、ここは県庁所在地の中では比較的公共交通機関が利用されているのです。路面電車やバスの利用率が高く、バスの平均乗車回数は年間66.6回で、東京や京都に次いで全国3位なのです。
地形的に車が使いにくいという制約が、逆に公共交通を守ってきた形になっています。意外と知られていませんが、地形の不便さが結果的に公共交通の維持につながるというのは、都市計画の面でも注目されている大事なポイントなのです。
変わり始めたインフラ――新幹線と高速道路
ここ数年で、九州の交通インフラは目に見えて変化してきました。
西九州新幹線の開業は記憶に新しいところです。長崎と佐賀を結ぶこの路線、実際に乗ってみると想像以上に快適で、時間短縮効果も大きく、観光客の増加にも確実につながっているようです。
それと、東九州自動車道をはじめとする高速道路網の整備です。これまで移動に時間がかかっていた地域が、どんどんアクセスしやすくなっています。下関北九州道路などの新規プロジェクトも進行中で、九州全体が「循環型の高速交通網」として機能し始めているのです。
個人的には、福岡から大分への移動がこんなに楽になるとは思っていませんでした。以前は在来線で3時間近くかかっていた区間が、今では特急と高速道路を組み合わせることで、選択肢が大幅に増えたのです。
ただ、インフラが整っても利用されなければ意味がありません。そこで登場したのが次にお話しする「九州MaaS」なのです。
「九州MaaS」が変える移動のカタチ
2024年8月にサービスインした「九州MaaS」。これが単なる交通アプリと思ったら大間違いです。
簡単に言うと、九州中の電車、バス、飛行機、船といったあらゆる交通手段をスマホ一つで検索・予約・決済できるシステムです。しかもデジタルチケットだから、わざわざ窓口に並ぶ必要もありません。
私が特に「これはいい」と感じたのは、複数の交通機関をまたいだルート検索ができる点です。たとえば「福岡から熊本の阿蘇まで行きたい」と思った時、新幹線、バス、タクシーを組み合わせた最適ルートを一発で提案してくれます。料金も一括表示されるので、予算に合わせた選択もしやすいのです。
おそらく、地方在住の高齢者にとっても大きな意味を持つでしょう。2025年には4人に1人が高齢者になると言われていて、自分で車を運転できない方が増えていきます。そんな時代に、スマホで簡単に公共交通を使えるシステムがあるのは心強いかぎりです。
ちなみに、このシステムには観光特典や割引チケットも豊富に用意されています。「佐世保・長崎満喫きっぷ」とか「太宰府・柳川観光きっぷ」とか、見ているだけでも楽しくなるようなプランが満載です。移動がただの移動じゃなく、旅の一部として楽しめる工夫がされているのです。
環境と経済、両方を考えた交通戦略
実は九州の交通政策は、環境面でも注目されているのです。
運輸部門は日本全体のCO2排出量の22%を占めていて、その多くが自家用車から出ています。自家用車1人を1km運ぶときのCO2排出量は、バスの2倍、鉄道の11倍で、この数字を見ると、公共交通へのシフトがいかに重要か分かります。
京都議定書の目標達成のためにも、自家用車の利用を減らして公共交通機関を使ってもらう必要があります。でも単に「エコだから電車に乗りましょう」と言うだけでは人は動きません。そこで、九州では公共交通を「便利でお得」にすることで、自然と利用が増える仕組みを作ろうとしているわけです。MaaSはまさにその具体策なのです。
一方で、渋滞による経済損失も無視できません。日本全体で年間12兆円という試算もあります。ロンドンでは「混雑課金」という制度を導入して、都心部に車で入る場合は料金を払わなければならないシステムを作りました。結果、交通量が18%減少し、バスやタクシーの利用が20%増加したそうです。
福岡でも渋滞はひどいですから、将来的にはこういった施策も検討されるかもしれません。交通政策は、環境・経済・利便性のバランスをどう取るかという難しい問題なのだと、改めて感じます。
それでも残る課題と、これからの可能性
それでも残る課題と、これからの可能性
これですべてがバラ色というわけでもありません。
地方の路線バスや鉄道の廃止は今も続いていますし、人口減少が進む中で採算が取れない路線をどう維持するかは大きな課題です。MaaSがいくら便利でも、そもそも走る便がなければ意味がないのです。それと、高齢者のデジタル対応も気になるところです。スマホアプリが使えない方々に、どうやってこの便利さを届けるのか、窓口や電話での対応も引き続き必要でしょうし、今そのバランスが問われています。
さらに、観光地への「オーバーツーリズム」問題があります。交通が便利になればなるほど、特定の観光地に人が集中するリスクもあります。これも計画的に対処していかなければなりません。
一方希望もあります。九州経済連合会や九州運輸局といった組織が、官民一体となって交通政策に取り組んでいる点は心強いです。自動運転技術の実証実験も進んでいますし、将来的にはもっと革新的な移動手段が登場するかもしれません。
それから、インバウンド需要も大きなチャンスです。アジアに近いという九州の地理的優位性を活かして、外国人旅行者にとって使いやすい交通システムを整えれば、観光産業のさらなる発展が期待できます。実際、MaaSでは英語や中国語、韓国語にも対応しています。個人的な意見ですが、この多言語対応は他の地域でも見習うべきポイントだと思っています。
九州の交通は「つながる」時代へ
九州の交通網は今、大きな転換点にあります。車社会からの脱却はまだ道半ばですが、新幹線や高速道路の整備、そして何よりMaaSという新しいプラットフォームの登場で、移動の選択肢は確実に広がっているのです。環境問題や高齢化社会への対応という社会的課題を抱えながらも、九州全体が「つながる」ことで新しい価値を生み出そうとしています。完璧な状態にはまだ遠いかもしれませんが、少なくとも以前よりずっと便利で、持続可能な方向に向かっているのは間違いありません。あなたも次に九州を訪れる時は、ぜひこの進化した交通システムを体感してみてください。きっと新しい発見があるはずです。

