屋台の灯りが照らす博多の物語──闇市から今夜の一杯まで

食べる福岡

福岡の屋台って、正直なところ行くべきなのか迷いませんか?観光客向けの高いだけの店かもしれないし、とはいえせっかく博多に来たのにスルーするのももったいない。実は屋台って、単なる食事スポットというより「博多という街の生き様」そのものなんです。戦後の闇市から始まり、何度も消滅の危機を乗り越えてきた屋台文化。今回は表面的な紹介じゃなく、もう少し深いところまで掘り下げてみたいと思います。

屋台が消えかけた、あの時代

博多の屋台って、実は何度も「もうすぐ消える」と言われ続けてきたんですよね。

戦後すぐは400軒以上あったらしいんですが、1995年に福岡県警が「原則一代限り」という方針を打ち出してから急激に減少しました。当時は「10年後には屋台なんて無くなってるだろう」という空気が漂っていたそうです。衛生面の問題、道路占用の問題、近隣住民からの苦情。理由は山ほどありました。

ただ面白いのが、屋台を潰そうとする動きに対して、地元の人たちが本気で反対運動を起こしたこと。河田琢郎という県議が先頭に立って、国にまで直談判したんです。「屋台は博多の文化だ」って。

正直、ここまで守られてきた理由って、単純に「美味しいから」だけじゃないんですよね。博多の人たちにとって屋台は、戦後の苦しい時代を支えてくれた「仲間」みたいな存在なんじゃないかと感じています。

ちなみに、今でも屋台の数は約100軒程度。ピーク時の4分の1ですが、それでも全国の屋台の9割がここ福岡に集中しているという事実。これ、すごくないですか?

「公募制」で何が変わったか

2013年に「福岡市屋台基本条例」が制定されて、屋台の新規参入が可能になったんです。全国初の試みでした。

それまでは親から子へ、一代限りで継承するしかなかったのが、公募という形で新しい血が入るようになった。その結果、何が起きたか。フレンチの屋台とか、ジビエ料理とか、コーヒー専門の屋台まで登場したんですよ。もう「屋台=ラーメンとおでん」っていう固定観念、完全に崩れました。

ただね、古参の屋台店主からすると複雑だったみたいです。「屋台でフレンチって何やねん」みたいな(笑)。

結果的には、この多様化が屋台街全体の魅力を高めることになったのは間違いないでしょう。若い世代も来るようになったし、外国人観光客も増えました。あと、公募の選考基準がけっこう厳しくて。衛生管理はもちろん、地域との連携とか、メニューの独自性とか、かなり細かくチェックされるらしいです。要するに、適当な気持ちで出店できるわけじゃないってこと。この真剣さが、博多屋台の質を保ってるんでしょうね。

屋台の「空気」って、何なんだろう

屋台の魅力って、料理だけじゃないんですよ。むしろ料理は二の次かもしれません。

何が一番かって、あの距離感。店主との距離、隣の客との距離、街との距離。全部が近い。普通の居酒屋だったら絶対に話しかけないような人とも、屋台だと自然に会話が始まるんです。これ、不思議じゃないですか?

たぶん、物理的に狭いってのもあるんでしょうけど、それ以上に「屋台」という場所が持つ特別な空気があるんだと思います。ちょっと非日常で、ちょっと昭和で、ちょっと怪しくて。それでいてどこか懐かしい。

中洲の屋台で隣に座ったおじさんが、急に人生相談を始めたりするんですよね(笑)。それが全然嫌じゃない。むしろその時間が、旅の一番の思い出になったりする。

福岡市の調査でも、観光客の8割以上が「屋台に良いイメージを持っている」って答えてるんですが、きっとこういう体験があるからでしょう。天神の屋台は比較的落ち着いてて、地元の常連さんが多い印象です。逆に中洲は観光客向けで、川沿いの風景もあって華やか。長濱は新規参入組が多くて、実験的なメニューに出会えるかも。どこを選ぶかは、その日の気分次第ですね。

知っておきたい暗黙のルール

屋台って、意外とルールがあるんです。知らないと恥ずかしい思いをするかもしれません。

まず、一人一品以上の注文は基本。ドリンクだけってのはNGです。それから長居は禁物。満席で待ってる人がいるのに、延々と居座るのはマナー違反です。大体1時間から1時間半くらいが目安かな。

生ものは基本的に出てきません。これは衛生面の理由で、条例で決まってるんです。だから刺身とかは諦めてください。

あと、屋台によっては現金のみのところも多いので、事前に確認するか小銭を用意しておくと安心でしょう。とはいえ、こういうルールって窮屈に感じるかもしれないけど、実はみんなが快適に楽しむための知恵なんですよね。屋台って空間が限られてるから、お互いに譲り合わないと成り立たない。その「譲り合い」の精神が、屋台文化を支えてるんだと思います。

ちなみに、店主に「今日のおすすめは?」って聞くのは全然OK。むしろ喜ばれます。そこから会話が広がって、常連さんを紹介されたり、他の屋台を教えてもらったり。そういう繋がりが生まれるのも、屋台ならではの楽しさですね。

観光資源になった屋台の、光と影

2023年、ニューヨーク・タイムズが「世界で訪れるべき52の場所」に福岡を選んだんです。その理由の一つが屋台文化。

確かに嬉しいニュースではあるんですが、正直なところ複雑な気持ちもあります。観光資源として注目されることで、地元の人が行きづらくなったり、値段が上がったり、本来の屋台らしさが失われたりしないか。実際、一部の屋台では観光客向けに価格設定が高めになってるところもあるみたいです。それが悪いとは言いませんが、地元の人が「最近、屋台行かなくなったな」って言ってるのを聞くと、ちょっと寂しくなりますよね。

ただ一方で、観光客が増えたことで廃業せずに済んだ屋台もあるはず。経済的に支えられて、文化が継承されるなら、それはそれで意味があること。要はバランスなんでしょう。

地元の人も観光客も、みんなが楽しめる屋台街であってほしい。おそらく今後も、この「観光資源化」と「地元文化の保存」の間で揺れ動きながら、屋台は進化していくんだと思います。完璧な答えなんて無いんでしょうけど、それでも模索し続ける姿勢が大事なんじゃないかな。

結局、屋台って何なんだろう

博多の屋台文化って、簡単には語れないんですよね。戦後の闇市から始まって、何度も消えそうになって、それでも生き残って。今では観光資源として世界から注目されてる。それでも本質は変わらない気がします。

屋台はたぶん、「人と人が出会う場所」なんです。店主と客、客と客、地元民と観光客。みんなが肩を寄せ合って、狭い空間で同じものを食べて、笑って、時には愚痴を言って。そういう時間を共有する場所。

もしあなたが福岡に行く機会があったら、一度は屋台に立ち寄ってみてください。料理の美味しさだけじゃなく、その「空気」を感じてほしいんです。きっと、福岡という街の懐の深さに触れられると思いますよ。

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